不妊症の原因の一つである、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)をご存じでしょうか?多嚢胞性卵巣症候群は、赤ちゃんを望む女性にとって重要な排卵が起こらなくなる状態をいいます。
ここでは、なぜ多嚢胞性卵巣症候群が起こるのか、原因や症状などの基礎知識を詳しくご紹介します。妊娠しやすい体を作るための参考にしてください。
多嚢胞性卵巣症候群ってどんなもの?
多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)症候群とは、なんらかの原因で毎月の排卵が正しく行えず、妊娠が難しくなっている状態をいいます。
また、多嚢胞性卵巣症候群は英語名のPolycystic ovary syndromeの頭文字を略して、別名PCOS(ピーコス)とも呼ばれています。
多嚢胞性卵巣症候群の発症は、生殖年齢にあたる20~40代の女性の中で約5~8%の割合に見られるとされ、毎月起こるはずの排卵がうまくいかない排卵障害の中でも、特に患者数が多いことが特徴です。
多嚢胞性卵巣症候群の原因
多嚢胞性卵巣症候群の原因は、はっきりと解明されていない部分もありますが、現在のところ内分泌異常と糖質代謝異常が主な原因と考えられています。
原因1. 内分泌異常
内分泌異常とは、卵子を包む卵胞を育てるために重要な、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)のバランスが崩れることが原因で、多嚢胞性卵巣症候群を発症することをいいます。
FSHとLHは、脳の脳下垂体の指令で分泌されますが、2つのホルモンバランスが乱れると卵胞が育たなくなり、排卵が起こりにくくなると考えられます。
原因2. 糖質代謝異常
多嚢胞性卵巣症候群は、すい臓から分泌されるインスリンの影響で発症するとも考えられています。
インスリンには血液に含まれるブドウ糖をエネルギーに変えて、血糖値を下げる役割がありますが、なんらかの原因でインスリンが正常に働かず、それを補うためにインスリンが過剰分泌することで男性ホルモンを増加させます。
男性ホルモンは、卵胞の発育をじゃまするため、卵子が成熟できず排卵も起こらなくなります。
多嚢胞性卵巣症候群の症状
多嚢胞性卵巣症候群になると、体には次のような症状が現れます。
月経不順・無月経
排卵が起こりにくくなるため月経不順や無月経になります。
不妊
排卵が正しく起こらないことで不妊症になることがあります。
男性的特徴
卵胞に含まれる男性ホルモンの量が増えるため多毛、低音声、ニキビなど男性的な特徴が体に現れます。
月経過多・出血が止まらない
女性ホルモンの黄体ホルモンが正しく分泌されず、月経の量が増えたり、出血が止まらなくなったりします。
肥満
肥満体形は、脂肪に男性ホルモンを蓄えやすいことや血糖値が高くなる傾向があるため、多嚢胞性卵巣症候群を引き起こすリスクが高いです。肥満体形で月経不順の人は、多嚢胞性卵巣症候群の可能性が考えられます。
多嚢胞性卵巣症候群の治療法
多嚢胞性卵巣症候群は、婦人科で血液検査や超音波検査を受けることで判明します。多嚢胞性卵巣症候群と診断された場合は、次のような治療法が行われます。
排卵を促す治療法
多嚢胞性卵巣症候群は、クロミフェンなどの排卵誘発剤を使用して排卵を促す治療が行われます。クロミフェンは比較的副作用の少ない薬ですが、効果が出るまでに時間がかかることが特徴です。
クロミフェンで効果が出ないときは、注射を使ったゴナドトロピン(hMG-hCG)療法が行われます。この治療法は高い効果が期待できますが、人によっては副作用のリスクがあります。
さらに、排卵誘発剤で効果が出なかった場合は、卵巣の表面に電気メスやレーザーを使って穴を開け、排卵を促す腹腔鏡下卵巣多孔術が検討されます。ほかにも、低用量ピルやホルモン剤の使用など、患者さんに合った治療法が選択されます。
生活習慣の見直しと肥満の改善
多嚢胞性卵巣症候群の治療では、血糖値を下げることと脂肪を減らすことも重要です。BMIが25.0以上の肥満体形の人は、食事や運動を中心にダイエットを行うことが治療につながります。また、生活習慣の見直しで肥満改善が難しいときは、病院で血糖値を下げるインスリン抵抗性改善薬が処方されることもあります。
ただし、海外では肥満の人に多嚢胞性卵巣症候群は多いですが、日本ではやせ型の割合が多いといわれます。体形に関わらず甘いもの食べ過ぎに注意して、血糖値を上げないようにしましょう。
おわりに
多嚢胞性卵巣症候群は、排卵が正しく行えないため妊娠しづらいですが、不妊症と診断されても適切な治療や生活習慣の改善で自然妊娠ができたケースも多いです。
反対に多嚢胞性卵巣症候群を放置すると症状の悪化を招き、いざ妊娠をしたいと望んだときには、長期の治療が必要になります。気になる症状があるときは、早めに病院を受診するようにしましょう。